僕の生徒を紹介します









昼休みはいつも、注文した弁当屋の弁当と、自販機の暖かいお茶。

食後のコーヒーの匂いが充満し、落ち着く空気の中、穏やかな職員室まで聞こえてくるのは…


『ガゴーンッ』


グランドでの青春

早崎勇馬×森慎吾×鷲タツヤ




「おや、今日も元気ですね」

眼鏡越しに、目を細めて笑った教頭。その視線はグランドに向けられている。


「すいません。僕のクラスのお馬鹿トリオです」


とにかく元気な早崎勇馬、クラス唯一の関西弁男、森慎吾。お馬鹿トリオの中で冷静なツッコミ担当の鷲タツヤ。

昼休みはもっぱらグラウンドでサッカー。先陣切ってグランドを占領するのだ。集められた何人かの生徒。その中にいても、三人の声はよく聞こえる。


「おや、また武井先生の車に…」

ぶつけたみたいですね、という言葉が続くのはわかっていた。グランドを囲むフェンス。それを飛び越えて、サッカーボールはこの学校一怖い、武井先生の車に直撃。


「おい、慎吾!またかよ」

「勇馬のパスが悪いんやろ。なんや、今のへなちょこパスは」

「はあ?お前がノーコンなだけだろ」

「はあ?昨日は勇馬がぶつけたくせに、よーゆうてくれるな」


見慣れたやり取り。
タツヤはどうでもよさそうに、こめかみを掻きながらあくびをした。


「元気があっていいですね」

にこにこと笑う教頭を横目に、噂の武井先生が職員室へと戻ってきた。野球部の顧問で生徒指導部長の彼は、賑やかすぎる外へちらりと目を向けた。


まあ実際、怖いというのはキャラ。普段は面白い人だし、学校内で怖いってだけの話。


「また、ですか」

その単調な言い方とは裏腹に、にんまりと笑った武井先生。ああ、今日もお馬鹿トリオはこってり絞られて、最終的には…


「武井先生、お手柔らかに」

ほっほっと笑った教頭。禿げ上がった額に、太陽の光が艶やかに反射した。


「大丈夫ですよ。じゃ、行ってきます」


グランドからの声に負けないくらい元気に、武井先生は外へと消えた。
同時に、グランドから僅かなどよめき。口々に言っているであろう言葉はきっと「やばい」。


案の定、数十秒後に武井先生の怒声と、焦る生徒の謝る声が響いた。

「ほんまにすいまへん」

「なめとんのか」

「なめてまへん」

「なんでお前までなまるんだよ」

「すいません」


頭を下げる勇馬と慎吾。その少し後ろで、笑いをこらえているのかタツヤが肩を震わせていた。


「鷲、なにか言いたいのか?」

「…えっ?いやー」

「あ、先生!元々はタツヤのスローインが悪かったんです」

「は?おい勇馬、適当なこと言うなよ」

「そうやで、タツヤが悪い」

ぎゃーぎゃーと始まった罪の擦り付けあいは、三人だけにとどまらず、その場にいた十数人全員にまでわたった。


呆れた武井先生が、全員の頭を叩いて回る。そして始まるのが…


「俺を止めれたら許してやる」


元々学生時代はずっとサッカー選手で、まあぶっちゃけ言えば、かなりうまい。年の割りに動けるなあ、なんてもんじゃない。

誰も止められないとわかっていながら、武井先生はそういうのだ。拒否権など与えられる間馬もなく、サッカーは再開される。


呆気なく抜かれていく生徒たちを見ながら、教頭はまた「ほっほっ」と笑った。

「武井先生も大人げないですね」

叱ることを理由に、生徒たちと遊びたいだけの彼は、明らかに学校にいるときで一番楽しそうだ。


それに気づいているのかいないのか、生徒たちは毎日毎日懲りもせず、武井先生の車にボールをぶつけてしまう。



「誰も止めれんのか〜!」

誰よりも元気なその声、羨ましいとも思うけど…


「青春ですね」

見ている教頭が、しみじみとそう呟くから恥ずかしい。この年になってまで青春とは…


「止めれんやつはペナルティだぞー」


今日もグランドには、情けなさと楽しくて仕方ないという歓喜の声が響いた。



───────…
(あのおっさん考えられん)
(止めれるわけねーよな)
(…ならぶつけんなよ。馬鹿)


配布元:雲の空耳と独り言+α
管理人:紫ノ薊様







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