僕の生徒を紹介します







「せんせー」

「ん?」


「恋と愛の違いってなんですか」


恋と愛の違い
西沢卓信



いつもと同じ、木曜日の6限目。
眠たそうな生徒を前に、特にすることのないホームルームの時間。

唐突にそう問われ、僕は目を丸くした。

「どうした、いきなり」

黒板には2週間後に催される球技大会の振り分けをする為に書かれた、種目名。すでに全て決まり、名簿を作る僕と手伝う相田ミカ。そんな僕に、視線が集まった。


「ほら、やっぱ結婚相手と付き合う人は違うのかなって」

その質問に、興味を示す他の生徒たち。


「ね、どうなの?」

先生に質問する態度じゃないな…と、溜め息をついてみても、もうみんなの目には期待の色が浮かんでいる。


「じゃあ…土屋は?」

等の本人は質問返しなど予想していなかったのか、首をかしげて困ったように眉を寄せた。


「あたしは…違う。…かな?」

「どうして?」


「んー…だって、恋は自由なものだし…好きになるのも尽くすのも、離れるのだって…でも、愛ってなると、ちょっと重い」

「…なるほど」


「“恋は奪う、愛は与える”そんな歌、あるよね」

僕のすぐ横。相田の声。
にんまりと笑って、相田は続けた。


「私はその通りだと思うけど。愛って、自然と生まれてきて、その人に与えたい、ってことじゃない?」


「確かに。ほとんどの恋は、略奪から始まるっていうしね。相手の気持ちを自分に向かせるために頑張るし、ただ尽くしてみても、どこかに見返りを求める」


僕は並べられた種目名と、出場生徒の名前の間をぬって、チョークを滑らせた。


“恋”、“愛”

「これを見て、気づくことはある?」


「“恋”この字、心が下にあるよね。つまり、下心 」

恋→下心
と書き足し、次は愛を指差す。

「“愛”これは心が真ん中にある。てことは、真心」

同じように矢印を書いて、真心と書き足す。
これは僕が昔、恋人に教えてもらった話。「貴方には真心がない。あるのは、“下心”だけね」と言われて、フラれた彼女に。

「ほんとだ!」

「でも、考え方は人それぞれ」


これはあくまで、一つの意見。
恋は自己満足で、愛はそうじゃない。愛は最終系で、恋はあくまで過程。恋は受けとるもの、愛は与えるもの。

「言い出したらきりがないし、正解もない。違うかな」


これはたぶん、人間にとって永遠のテーマだと思う。
家族を当たり前のように愛しているくせに、彼女は好きなだけ。守ってあげたい、大事にしたい、でもいつか冷めるそれは、やはり恋に落ちた、という過去形になるのだとも思う。



「高校生の考えも、教師の考えも、そんなに違わないよ。ただ、生きた年数差だけ、経験値が少し多い。それだけの話」


土屋は唸りながら、でも納得したのか小さく頷いた。

『キーンコーン…』



「はい、じゃあおしまい。きりーつ」


その時間、僕が話したことが誰かの心に響いたとは思わないけれど、いつか彼女たちも大きな選択をしなきゃならない時が来る。その時の糧になれば、幸い。


「れーい」


生徒を愛する、教師の見解。


──────────…
(にっしー、恥ずかしくないの)
(え?)
(聞いてるこっちが恥ずかしかったよ)

その質問で、耳が熱くなった。


配布元:
嘘つきピエロの憂鬱
管理人:シェリ様






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