僕の生徒を紹介します







『キーンコーン…』

「うい、じゃあ今日も一日頑張れー」


“3年1組 学級日誌”

「あー!小枝ー、りゅうーお前ら今週日直な」


黒板消しの行方
屑谷隆平×小枝まこ



僕の声に、クラス一の大男屑谷隆平が顔をあげる。それに隠れた、彼のうしろの席の女子生徒。クラス一小さな、小枝まこだ。

「はーい」という声だけの確認。かと思えば、屑谷の後ろからちらりと顔を覗かせて、ふわりと微笑む。

僕は日誌を彼女に渡すために腰をあげ、パタパタと音をたてるスリッパを引きずりながら歩く。


「はい、じゃあよろしく」

「はーい」

「日誌、面白く書かないとやり直しだから」


冗談混じりに微笑めば、小枝は本気で困ったように僕を見上げた。屑谷も振り返り、「いじめはよくないよ」と、悪戯に笑う。



「はいはい、じゃあ頼んだよー」


少しだけわくわくしながら、教室を出る。
二人組で一週間づつ。出席番号10と11の二人が、一緒にそれをすることはあり得ない。でも、屑谷の前の木村さんは今学期まだ一度も学校に姿を現していない。

おかげで、僕が気になっていた二人が一緒に日直を努めることになった。

気になっていた理由はひとつ。
あの二人は見てて痒くなるほどに、初々しく接するのだ。


毎時間の黒板消しと、放課後の戸締まりと日誌の提出。何かを期待する僕。それは教師として不純な動機。

分かっていたから、あえて遠くから見守ることにした。



『キーンコーン…』


「……」


「……面白っ」


「なに?」


授業が終わるごとにざわつく教室内。
それをドア越しに眺めながら、僕は思わずつられて笑いを漏らしてしまう。


「すごい身長差だよ」

「もー、うるさい」


そんな友人の指摘に、小枝は口を尖らせる。可愛らしい彼女の行動に、隣で黒板消しを握っていた屑谷の顔が、ほんのり赤に染まる。

月曜日、火曜日、水曜日、木曜日。代わり映えなく、その光景は続く。上下に分担して消される黒板と、窓の戸締まり。そして丁寧に、かつ面白く書かれた小枝の日誌と、まったく面白味のない屑谷の一日の振り返りが交互に続く。


「……じゃんけんっ…」

「ポン!」


密かに様子をうかがうのも、今日で最後だな、と思いながら僕は教室を覗く。

「やった!はい、屑谷くん」



どうやらそのじゃんけんは、日誌の番を決めるものだったらしく、小枝は満面の笑みで屑谷へとそれを渡した。

代わりなのかなんなのか、小枝は黒板消しを握って一面に書かれたそれを消し始めた。


屑谷の日誌、面白くないから嫌だな〜なんて思いながら、悪戦苦闘しながら手を伸ばす小枝を眺める。

5月の暖かい日差しは強さを弱めて、窓から注ぎ込む。それに照らされた彼女と、彼。それがやけに青春の1ページみたいで、思わず口元が緩む。

そして、次の瞬間思いもよらないことが起きる。


「あっ!」


窓から手を出して、パタパタと黒板消しを叩き合わせていた小枝の声が小さく響く。こちらからではその背中しか見えないために、何が起きたかはわからない。ただ、想像はつく。


屑谷は書き終えたのであろう日誌を閉じ、小枝が身を乗り出す窓へと歩み寄る。


「落ちちゃった」

「……」


拾いに行きなさい。
と、顔を出そうとしてやめた。
いいことを思い付いてしまったから。

「……よし、帰ろ」

「え?」

「屑谷くん、部活でしょ?」


見た目に似合わず人見知りのひどい屑谷。そんな彼に素で接する小枝は、きっと誰にでもそうなのだろうけれど…


「遅くなると怒られない?」

「……やっべ…」

時計を見上げた彼に、小枝は小さく笑い日誌を受け取った。きっと彼女が、それを僕に届けてくれるのだろう。


「部活、頑張ってね」

「ありがとう。小枝も気を付けて」


僕の目には、なんだかお互いに少し…
意識しているように見える。もちろん、そんなのは気のせいだって可能性は十分にあるのだけれど。

僕個人としては…



次の週の月曜日、僕はまだ登校してきていない屑谷の机の上に、日誌を置いた。


“屑谷、面白くない。
小枝、黒板消し紛失。
もう一週間のペナルティーです”


そう赤ペンで書き込んで。


だってもう少し、二人が近づいていく様子を見ていたいから。


─────────…
(え!?何これ)
(……)
((頑張ろっか))

(ほーらね)


配布元:雲の空耳と独り言+α
管理人:千羽鶴様







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